新型コロナウイルスの影響により多くのお客様がテレワークなどに移行する「新しい仕事」の時代が予想されます。具体的には,開発の現場においても,計測試験をアウトソースする動きがより活性化してくると考え,皆さまにそのガイドとなるべく5回の連載で,解説をしていきたいと思います。
もともと日本では個々の会社の品質レベルが高く,開発担当がデバッグ完了後の計測結果をもって,社内の品質会議やクライアントへの提示データとしてきました。クライアントもそのデータを受け入れていました。これは開発製品に専用機や特注品が多く計測内容や方法が特殊だったことやクライアント側も問題があれば瑕疵担保責任を請求し改修させることが可能である事情もあったと考えられます。しかし,昨今のPCインタフェースに代表される規格群は,グローバルマーケットに対して,ベンダもグローバルに存在し,開発側が提示するデータをそのまま信頼してしまっていいのかという疑問にたどり着きました。多くの規格団体は,その疑問に「第三者による試験・品質確認」という“Certification”という概念を利用することで対応しました。結果,規格の信頼性向上,そして,それがさらなる市場の拡大につながる「エコシステム」の構築に成功しています。試験を他者(第三者)に委ねることはこういった製品のパラダイムシフトから派生したものだといえます。
私どもが試験サービスを提供する場合,お客さまと具体的な話し合いを重ねながら,最終的にお客さまの求める要件とお客さまが負担する費用の整合をとる必要があります。この作業において一見簡単そうで,実は難しいケースという状況があります。どういう時だと思いますか?「もっと安くしなければ!」といった価格の交渉だと思いますか?いえ,実は違います。評価において何をすべきなのか,お客様自身もぼんやりとしかイメージがないケースです。そして,このケースが意外にも多いのです。もっとも,これはインタフェースの多様化と複雑化で,評価内容のスペックはあれども,英語だったり,ドキュメントが分かれていたり,理解することが難しくなっているため,仕方のないことです。我々はインタフェース試験を専門としており,どういう規格にはどんな試験が課せられているかを理解していますので,お客様にもアドバイスさせていただきながら,最終的な試験プランのご提案はできるのですが,それはお客様からの情報をもとに正しい製品カテゴリや製品仕様を理解したりする必要があります。
この問題の解決策を議論するために,いくつかの場合分けをしてみました。私がお客さまとの打合せで感じたところ,次に挙げる状況が多いと思います。
最初の製品仕様を把握されていないケースは,ご依頼された方が発注業務専任のご担当者である,または,開発のご担当であっても業務経験が浅いといった開発に主体的にかかわっていない方々に見受けられます。対象となる被試験機(DUT: Device Under Test)がありそれがどのような製品であるかをご説明していただけることは,試験業務のご発注の起点となります。
第二のインタフェースの実装仕様を把握されていないケースは,特注品開発が多い流れから日本のお客さまに多いように思えます。通常,私どももこれまでの経験に基づく質問票を使い確認します。その際,複雑な構成,例えばUSBでは,ホスト,ペリフェラルデバイス,ハブ,そして,これらの組合せが一つのシステムとなっている場合もあり,どのように実装しているかといった仕様提示をしていただけないことがあります。そのような状況では,試験すべき内容が計れないことになり,お客さまにとって試験外注という目的が完遂できないリスクが増えることになります。
第三の「試験内容を把握できていない」ことは,多くの業務を抱える皆さまにとってはやむを得ないところではあります。ですが,ここで試験仕様書(CTS: Compliance Test Specifications)を知っていると,お客さまが概算工数を判断でき,優位になります。折角なので,この機会に知識を拡げていただきたいと思います。
規格インタフェースにおいて,仕様書に基づき実装が行うことは一般的なことですが,その仕様に沿って,CTSと呼ばれる試験仕様書が構成され,試験の実施方法も規格化されています。
CTSについて述べると,その作成の最初のステップは,試験しなければならない項目アサーション(Assertion)の抽出となります。多くの規格が英語で起草されている現在,これは思いのほか機械的で,仕様書から助動詞の“shall”が使われている箇所を抜き出します。ここで“shall”は義務を示す表現でISO文書でも指定されています。規格によっては類義語表現も許容しており“must”や“is required to”も同様に扱います。仕様書の英語についてさらに追記すると“should”はガイドラインとして推奨項目を,“may”はオプションとして実装可能な項目を示します。“may”の記載は,そのオプションを実装している場合,確認する項目としてアサーションに加えられます。CTSには,このアサーションのリストが記載されているものもあれば,記載されていないものもあります。
そして,抽出されたアサーションを確かめるためにどのように試験するか,および,合否判定基準(Pass Criteria)が記載されています。計測器や試験ツールによっては,CTSを具体的に実行するため,MOI(Method of Implementation)と呼ばれる手順書が個別に作成されることも多くあります。また,便宜的にCTSは,物理層やプロトコル層など,複数のカテゴリに分けられます。
規格団体によりポリシーが様々で,非会員に対して仕様書やCTSが無償公開していないものも少なくありません。しかし,USBの規格団体であるUSB Implementers Forum Inc.は規格の仕様書とCTSはほとんどが参照可能です。
以下にCTSの一例を示します。
“USB 3.1 Link Layer Test Specification”
https://www.usb.org/document-library/usb-31-link-layer-test-specification
アサーションがピックアップされ,それを確認する試験手順・合格判定が記載されています。
以上,要点をまとめます。試験を外注していただくには,以下をご説明していただくことが大切です。さらに試験実施項目を知っていただくためにCTSについて解説しました。
1. 試験対象である製品について,どのようなものか
2. その製品において,試験対象インタフェースがどのように実装されているか
3. そのインタフェースにどのような試験を希望するか
試験カテゴリや試験仕様の概要を理解するのはその第一歩です。認証試験や解析を行う上で,正しいカテゴリで実施することは最重要です。間違ったカテゴリで試験をしても,適切でないために市場で不具合として見つかることがあります。弊社GRLは試験の専門会社なので,正しい試験が実施できるようアドバイスができます。しかし,そのためには正確な製品情報が必要になります。困ったときにはご相談ください。
次回予告:
CTSは、それに拘りすぎて外注すると最適にならないときがあります。そういった「綾」について説明したいと思います。
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