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VESA DSC(Display Stream Compression)の解説 | GraniteRiverLabs Taiwan

作成者: GRL Team|Apr 29, 2021 2:55:00 PM

Sophie Lee
Senior Engineer, GRL

 

Display Stream Compression(略称:DSC)は、画像データを低帯域に圧縮して伝送し、高解像度コンテンツを伝送する技術で、視覚的に品質劣化がなく低遅延を特徴としています。 DSCは、DisplayPort™HDMI®、MIPI、など様々な画像インタフェースで利用することができます。 今回はDisplayPort(DP)認証におけるDSC試験について紹介します。

 

DSCの動作原理

DPのDSCテストを紹介する前に、DSCの動作原理を簡単に紹介します。 DSCシステムは、エンコーダーとデコーダーで構成されます。 エンコーダーは送信側に装備され、画像データを送信する前に画像を圧縮します。デコーダーは受信側に装備され、受信した画像データを解凍、復元、表示を行います。 もちろん送信端末と受信端末の両方がDSCに対応していなければ、正常な伝送は行われません。

Figure 1

 

DSCは、予測符号化とインデックスカラーヒストリーの確立により、画像データを圧縮します。予測符号化は、送信端末で対象画素とその周辺画素を予測し、予測画素と元画素を演算処理し、誤差を求めます。 その誤差をデータとして受信端末に送信します。 受信端末では、上記の手順で対象画素を予測し、その誤差を加えることで、より元の画素に近い画素を得ることができます。
このように、誤差分だけを送信すればよいので、データ量を削減できます。インデックス・カラー・ヒストリー(ICH)は、頻出画素をインデックスとして保存します。 送信時には、大量のデータではなく、インデックスデータのみを送信することでデータ量を減らします。 ICHは、グラフィック画像や大きな単色画像に有効です。 

次の2枚の図は、それぞれ送信端末圧縮フロー図と受信端末伸長フロー図です。

Fig. (2) エンコーディングプロセス
From the VESA DSC specification (DSC v1.2a)

 

 

Fig. (3) デコーディングプロセス
From the VESA DSC specification (DSC v1.2a)

 

予測符号化には、MMAP(Median-Adaptive Prediction)、BP(Block Prediction)、MP(Midpoint Prediction)の 3 種類があります。このうち、BPは選択的にサポートされます。 DisplayPortではLink Trainingを行う際、DisplayPort Configuration Data(以下、DPCD)を通じて送信端末に受信端末の情報が通知されます。 送信端末からは、予測符号化方式やICH方式による圧縮を受信端末に通知することはありません。 送信端末は、ピクチャーの画素構成に基づいて圧縮方式を決定します。 まず、予測符号化方式とICH方式のどちらを使用するかを決定します。 予測符号化を選択した場合、まずMMAPかBPを選択し、その後MPを使用するかどうかを選択します。 予測符号化を選択した場合は、符号化後の誤差が最小になるようにします。

DSC技術では、符号化処理を高速化し、品質劣化を低減するために、「スライス」を採用しています。これは、画像の各フレームをカットし、カットしたスライスを同時に符号化するものです。 DSCは1、2、4、8、それ以上のスライスをサポートすることができます。 ただし、単位はスライス/ラインであり、ラインとは画像を作成するラスタースキャン列をラインとしていることに注意してください。 また、スライス数が異なるだけでなく、長さや幅が異なるスライスを使用することもあります。 Fig。(4)の右上と右下の2枚の写真に示すように、いずれも4スライス/ラインです。 使用するスライスの長さや幅は、送信端末や受信端末がサポートするスライス数やDSCの圧縮・伸張率に依存します。 リンクトレーニングを実施すると、送信端末と受信端末は、通信を行い、相互にサポートする組み合わせのDSC圧縮伸張を決定します。

Figure 4

 

DSCは、送信端末と受信端末が接続されると、Link Trainingが実施されます。 Fig.(5)は、Link TrainingでDSCを有効にするためのプロセスを示します。 送信端末は、受信端末のEDID(Extended Display Identification Data)、DPCD(DisplayPort Configuration Data)を読み取り、受信端末のDSC機能を確認しDSCを有効にします。DSC 関連の DPCD アドレスは、Table(1)を参照してください。

 

Figure 5

 

Table 1

 

Link Training が終了し、画像データを伝送される際に、Main-Link Protocol を通じて DSC 関連機能の通信が行われます。 Main-Link Protocol は、Control VB-ID、Metadata、Audio、Picture Parameter Set、End of Chunk で構成されます。

このうち、Control VB-ID、Picture Parameter Set、End of Chunk には DSC 関連情報が含まれており、これらの情報は、送信端末から受信端末に送信されます。 リンクトレーニングの過程でDSC Enable(アドレス160h)が有効であれば、 送信端末はVB-ID(Compressed Stream_Flag)にDSC機能の要求情報を書き込み、Picture Parameter SetにDSC機能の関連情報を書き込みます。 VB-IDは、Fig.(6)に示すように、垂直ブランキング(Vertical Blanking)期間に配置されます。 送信端末は、DSCのバージョン、ピクチャのサイズ(高さ・幅)、ピクチャで使用するカラーフォーマット、色深度など、DSC機能に関連する情報をピクチャパラメータセットとして送信します。
DP DSC テストで留意すべき情報をTable(2)に示します。

Figure 6

 

Table 2

 

DP認証におけるDSC試験

最後に、DP認証におけるDSC試験について紹介します。 DSCではDPCDやMain-Link Protocolを用いてDSC関連の情報を通信するため、Link Trainingや、Main Link Protocolが正常に行われているかを確認することが試験目的の一つです。 
DSCには、解像度、スライス、カラーフォーマット、色深度、エンコード/デコードの方法など、様々な要素が含まれています。 そのため、各々の組み合わせに関してテストを行います。 また、DSCは視覚的な劣化がないことが自慢なので、テストでは肉眼で映像が正常であるかどうかも確認する必要があります。以下の表は、送信端末で試験する項目を並べたものです。

Table (3)

 

上表の最初の2つのテスト項目は、通常時とBP使用時にDSCが正しく有効になっているか確認します。 リンクトレーニング、メインリンクプロトコルの検査を除き、他の項目では肉眼で画像を確認します。最後の4.6.1.8 および4.6.1.9 の試験項目は、製品の下位互換性の検査です。 受信端末が DSC 1.1 にのみ対応している場合でも DSC も正常に有効であるかどうかを確認します。 受信端末の検査方法もほぼ同じですが、少しテスト項目が増え、カラーフォーマットによるテストと、色深度、Block Prediction、圧縮率、スライス数、チャンネル数によるテストがあります。 テスト項目は全部で26項目となります。

DisplayPortの進化に伴い、伝送速度や解像度が向上してきました。解像度は2Kから4K、8K、そしてそれ以上へと進化しています。 しかし、送信側、受信側ともに高解像度、高伝送速度に対応できるものの、ケーブルのハードウェア的な限界、つまり高速伝送時の信号ロスの問題を解決できない可能性があります。 

DSC を導入することで、物理的な伝送速度が低くても高解像度の映像出力が可能になりました。 DSCは、高解像度の要求に対して出されたVESAの回答であり、今後も発展が期待されます。



参考文献

  • VESA Display Stream Compression (DSC) Standard Version 1.2a – 18 January, 2017
  • VESA DisplayPort (DP) Standard Version 1.4a – 19 April, 2018
    VESA® DisplayPort® DSC Link Layer Compliance Test
  • Specification Version 1.4a Revision 1.1 Draft 6 – 18 November, 2019

著者
Sophie Lee –GRLシニアエンジニア (台湾)
国立台湾大学機械工学部を卒業し、3年以上のテスト経験を持ち、DisplayPortEthernet、その他のテスト仕様に精通している。GRL技術論文の著者・講師